有声音と無声音を意識すると・・・

色々な方と接していると、規則変化動詞の過去形/過去分詞形の発音がスムーズに出来ない方に出会うことがあります。例えば、音読している英文の中に“stopped”が出てきたとしましょう。最後の”-ed”を[t]と発音すべきか[d]とすべきか戸惑いを見せる人が一定の確率でいるのです。  

この様な人に出会ったとき、随分と遠回りするようなのですが、「有声音」と「無声音」の概念にまで遡って説明するようにしています。学校ではほとんど教わりませんが、単純なことでもあり、一旦理解して「そうだったのか!」と納得がいくと、忘れることはありません。また、過去形/過去分詞形の発音に留まらず、英語の発音に関して「なるほど!」と妙に合点がいくことがたくさんあります。 

 


 

この記事を読んで頂いている方の多くのは「私は、そんな初歩的なことで困ることはない。」と思われているでしょうが、普段何気なく出来ていることでも、ひょんなことから納得がいくのはとても愉快なことです。

 

前置きはこの位にして、早速本論に入りましょう。

「有声音」と「無声音」

ある言語において、発することの出来る最小の音を「音素」(phoneme)と呼んで発音記号で表します。音素の分類方法としては、「母音」と「子音」に分けるやり方があり、誰でも知っています。別な分類法として、「有声音」と「無声音」に分けるやり方があります。

 

「有声音」は声帯の振動を伴う音素のことで、無声音は声帯の振動を伴わない音素のことです。例えば、喉の辺りを手で触りながら「あー」と発音すると振動を感じます。これが、有声音の例です。

他方、誰かに静かにするようにと「しっー」と発音しても、声帯の振動は感じません。つまり、空気の流れる音だけです。これが、無声音の例です。[p]音も口が破裂する音だけで声帯の振動を伴いませんので、無声音です。

 

母音と呼ばれるものは全て有声音ですが、子音は有声音も無声音もあります。例えば、[z]は有声音、[s]は無声音です。(※1) 

この上なくシンプルな傾向(ルール)

上で述べたように、有声音と無声音そのものは非常に単純な概念です。大事なのは、この有声音と無声音に関して、次の傾向(ルール)があることを知っておくことです。その傾向(ルール)とは・・・

  • 有声音の後には、有声音が来やすい。
  • 無声音の後には、無声音が来やすい。

 

このことを、複数形の発音を例にとって説明します。“dog”の複数形“dogs”は、最後のところを、[z](有声音)と発音しますね。これは、[g](有声音)の直後の音素だからです。(因みに、無理やり最後を[s]と発音しようとすると、相当言いづらいことを実際に試してみて確認しておきましょう。)

 

一方で、“book”の複数形“books”は、最後のところを、[s](無声音)と発音しますね。これは、[k](無声音)の直後の音素だからです。(※2)


規則変化動詞への応用

このシンプルな傾向を意識すると、規則変化動詞の過去形/過去分詞形の語尾“-ed”の発音がスッキリ理解出来ます。この“ed”の発音には3通りあるのですが、動詞の原形の語尾の音によって決まります。

 

  1. 有声音([d]を除く)で終わる場合 ⇒ [d]: saved, confirmed, learned, apologized, realizedなど
  2. 無声音([t]を除く)で終わる場合 ⇒ [t]: kicked, fixed, jumped, talked, worked, established など
  3. [d]または[t]で終わる場合 ⇒ [id]: wanted, competed, accepted, provided, needed  など

 

英語に関連するルールや傾向の殆どには「例外」が存在します。実際、”Every rule has 200 exceptions.”(全てのルールには200の例外がある。)とネイティブに言われたこともあります。しかし、ここでご紹介した規則変化動詞の”-ed”の発音は、例外のない珍しい規則です。


(※1) 知っていてどうなるわけでもありませんが、ちょっとしたマメ知識があります。子音には、有声音も無声音もあるのですが、相当数の子音が「ペア」を形成しています。 どういうことかと言うと、まったく同じ口の形をして、「声帯を振動させる」(有声音)か「声帯を振動させない」(無声音)かの違いしかないものがあります。全部で8組あるようなのですが、以下に一部を載せておきます。口ずさんで確認してみてください。

  •  [g] [k]
  •  [b] [p]
  •  [d] [t]
  •  [v] [f]
  •  [z] [s]

(※2)“have to”の発音が「ハフトゥー」となることも同じルールで説明できます。“have”の[v]の音が”to”の[t]の音の影響を受けて、ペアの相棒である[f]に変化するのでしょう。これにより、無声音→無声音の繋がりが実現しました。